あえて作り手の「痕跡」を残す
日本には、技術と伝統に裏打ちされた高品質な製品を作り続けてきたメーカーが数多く存在します。今回のプロジェクトではアルミ製品を得意とする富山の老舗メーカーに製造を託しました。アルミの加工において確かな技術を持ち、社内一貫生産で高水準の製品を作り続けてきたメーカーです。私たちが目指す製品を形にするため、長年にわたり徹底的な品質管理と均一性を重視してきたメーカーに対して、今までとは異なるアプローチを要求しました。それは、作り手の痕跡が感じ取れるハンドメイド感のある質感で、メーカーが取り組んできた均一性とは正反対の仕上がりです。
「軽さ」と「重厚感」の両立
本企画は便利なダッチオーブンをもっと気軽に使ってもらうため、素材にアルミを使うと決めていました。軽量でシーズニングも不要、使った後は中性洗剤で洗えることから、鋳鉄製よりも圧倒的に使いやすく手入れが簡単だからです。しかし、アルミはその質感と軽さから、安っぽく見えてしまう欠点があります。それを払拭するためにユーザーの所有欲を満たす重厚感、作り手の痕跡が感じ取れるようなハンドメイド感を目指しました。
工場視察で見えた「手作業」
企画が進みサンプルが仕上がった頃に、工場を視察させていただきました。工場と聞くと機械的に生産ラインが流れているようなイメージでしたが、意外にも職人の手作業が多いことに驚きました。品質を守るためには、職人たちの技術と経験が必要で、まだまだ機械では代用できない日本のモノづくりの素晴らしさを実感しました。仕上がった製品が綺麗すぎるが故に、作り手の痕跡が消えてしまい、無機質でどこか寂しさも感じた瞬間です。
「機械」ではなく、「人」が作っている
メーカーは無理難題を実現するために、色々な工程を試してくれました。それはサンドブラストで表面を傷つけたり、アルマイト加工のタイミングを変えてみたり、メーカーも初めての試みばかりです。傷付けられた表面はザラザラした質感で、そこにアルマイト加工を施すことで、耐久性や耐摩耗性といった機能面の向上はもちろん、表面が灰色に色づきます。部位によって凹凸の細かさや色の濃さが異なり、作り手の痕跡が残ることで、機械ではなく人の手によって作られたことが感じとれる質感に仕上がりました。また、マットな質感がアルミの軽量性とは裏腹に、重厚感も感じられるデザイン。